今回は、「いままでに取引された(主に公表ベースで把握できる)超高額絵画トップ10」を第10位から第1位までお届けします。価格は基本的に報道・オークション結果・市場関係者の推定に基づく“名目額(当時の契約時ドル表示・落札手数料込み等)”の目安であり、インフレ調整はしていません。それでは、アート市場をざわつかせた“ゼロの数がケタ違い”の名画たちを、ご紹介していきましょう!
第10位 アメデオ・モディリアーニ《裸婦(横たわる裸婦)》(Nu Couché / Reclining Nude)

1917-18年頃制作、赤い寝具に横たわるモデルを描いたモディリアーニ屈指の官能的大作。2015年11月9日、ニューヨークのクリスティーズで1億7,040万ドル(バイヤーズ・プレミアム込み)という当時史上2番目の高額で落札され、「モディリアーニ価格革命」の象徴に。電話入札で競り合いは約9分続き、上海の龍美術館(Liu Yiqian/王薇夫妻コレクション)入りが報じられました。作品は1917年パリ個展で“わいせつ”扱いされ警察沙汰になったスキャンダル群作の一つというドラマ性も人気を後押し。
第9位 パブロ・ピカソ《アルジェの女たち(“O”バージョン)》(Les femmes d’Alger (Version ‘O’))


巨匠ピカソがドラクロワ《アルジェの女たち》にオマージュを捧げて描いた15点連作の掉尾を飾る一作(1955年)。2015年5月11日、ニューヨークのクリスティーズ「Looking Forward to the Past」オークションで1億7,940万ドル(手数料込み)を記録し、当時のアートオークション史上最高額を更新。激しい電話応札の末に“落札ハンマー→会場歓声”という劇的シーンは市場史に残る名場面と評されます。
第8位 レンブラント《マールテン・ソールマンスとオープイェン・コピット夫妻像(ペンダント・ポートレート)》(Pendant portraits of Maerten Soolmans and Oopjen Coppit)

1634年、結婚記念に制作された等身大・全身像のペンダント(対)肖像。オールドマスター作品として異例の市場評価で、2015年にロスチャイルド家コレクションからルーヴル美術館&アムステルダム国立美術館(ライクス)による共同購入が成立。総額1億8,000万ドル相当(€160M)のディールはレンブラント史上最高水準であり、両館で交互公開される“文化外交的共同保有”モデルとしても注目を集めました。
第7位 マーク・ロスコ《ナンバー6(紫、緑、赤)》(No. 6 (Violet, Green and Red))

ロスコ1951年のカラーフィールド期を代表する大画面。ふわりと溶け合う色面が瞑想的空間をつくる本作は、2014年にスイスのアートディーラー、イヴ・ブヴィエを介したプライベートセールでロシア人コレクターのドミトリー・リボロフレフに渡り、報道ベースで1億8,600万ドル規模と伝えられました。取引後に展開した「ブヴィエ事件(Bouvier Affair)」の渦中作品としても知られ、アート市場における仲介マージンと価格透明性問題を象徴する存在になっています。
第6位 アンディ・ウォーホル《ショット・セージ・ブルー・マリリン》(Shot Sage Blue Marilyn)

ポップアートのアイコン、マリリン・モンローのシルクスクリーン・ポートレート(1964年)。2022年5月9日、クリスティーズ・ニューヨークのイブニングセール「The Collection of Thomas and Doris Ammann」で1億9,500万ドル落札。20世紀美術としてはオークション史上最高額を樹立し、ウォーホル市場の頂点を塗り替えました。落札者はギャラリスト、ラリー・ガゴシアンと報道されています。
第5位 ジャクソン・ポロック《ナンバー17A》(Number 17A)

アクション・ペインティングの旗手ポロックが1948年に制作したダイナミックな滴り(ドリップ)絵画。2015年9月、実業家デイヴィッド・ゲフィンからヘッジファンド界の大コレクター、ケネス・C・グリフィンへ渡ったプライベートセールで2億ドルと報じられ、同時に購入されたデ・クーニング《インターチェンジ》との“合計5億ドル取引”が世界を驚かせました。抽象表現主義の再評価と超富裕層コレクション競争が価格高騰を牽引した代表例です。
第4位 ポール・ゴーギャン《いつ結婚するの?》(タヒチ語:ナフェア・ファー・イポイポ?)(Nafea Faa Ipoipo? (When Will You Marry?))

1892年、タヒチの若い女性ふたりを描いた鮮烈な後期ゴーギャン。2015年に元ベーラー財団の寄託者ルーディ・シュテークリン所蔵作が売却され、2億1,000万ドル級のプライベートディールが法廷闘争(仲介コミッション訴訟)を通じて露見。買い手はカタール関連と報じられ、オークション外市場の巨大マネーが印象派~ポスト印象派ブルーチップを押し上げた象徴案件として語り継がれています。
第3位 ポール・セザンヌ《カード遊びをする人々》(The Card Players)

静かな室内でカードゲームに興じる農民たち――セザンヌ晩年の名主題「カード遊び」連作の一点が、2011年にカタール王室へ売却され概ね2億5,000万ドル(推定)と報道されました。成約時点で“史上最高額”と称され、市場におけるセザンヌ評価を劇的に押し上げただけでなく、湾岸諸国の文化への投資の象徴的ニュースとして世界を駆け巡りました。
第2位 ウィレム・デ・クーニング《インターチェンジ》(Interchange)

抽象表現主義の巨匠デ・クーニングが1955年に描いた、躍動する筆致と肉感的形態の名画。2015年9月、デイヴィッド・ゲフィン・コレクションからケネス・C・グリフィンへと移ったプライベートセールで3億ドル前後と報じられ、“現代アート最高価格”を更新。戦後アメリカ美術の評価が跳ね上がった象徴的ディールです。
第1位 レオナルド・ダ・ヴィンチ《サルバトール・ムンディ(世界の救い主)》(Salvator Mundi)

長らく行方不明とされ“再発見”後に帰属論争を巻き起こしたレオナルド作品(あるいは工房作か?)が、2017年11月15日クリスティーズ・ニューヨークでの特別セールで4億5,031万2,500ドル(手数料込み)という史上空前の落札価格を記録。競売室は熱狂、世界メディアが「オークション史上最高額」と報じました。落札者はサウジアラビア皇太子ムハンマド・ビン・サルマン関係筋とされ、その後の所在(港湾型フリーポート保管説、ヨット展示説、サウジ文化計画での公開構想など)をめぐり謎が尽きません。作品真贋をめぐる議論も継続中で、市場価格と学術評価の緊張関係を象徴する存在です。
まとめ
美術品価格ランキングは「投機の温度計」でも「文化力のバロメーター」でもあり、オークションとプライベートセール、学術評価とブランド性、透明性と秘匿性、ナショナルギャラリーの公共使命と個人富豪の情熱――これらが渦を巻いて数字を押し上げます。インフレや通貨変動、手数料や契約条件、作者帰属論争まで絡むため、“金額=絶対価値”ではないにせよ、私たちに「なぜこの作品がそこまで欲されるのか?」という問いを投げ返してくれるのも事実。次に世界を騒がせるケタ違いの落札は、どの作品になるのでしょうか。アート市場の動向から、目が離せません!